線路の上にぼんやりと現れた女性。よく見るとその身体には下半身が存在しなかった。こちらの視線に気付いた彼女がゆっくりと近付いてきた。それも笑いながらつぶやくようにお経を唱えて。恐怖の余りに布団に隠れたが。彼女は私の中に入り込み、苦しみを訴えた。
もともと幼少の頃から霊感というものがあったようで、これは私が20代前半の頃のお話です。
様々な心霊体験をしてきた私ですが、その中でもこの体験は忘れる事の出来ないくらいの恐怖体験でした。
当時、私は居酒屋のバイトをしていて、いつも帰りは朝早くになる事がほとんどでした。
当時、住んでいたのは大阪でも有名な桜の名所の辺りで、友達の家に無理やり上がり込んで男同士の同棲生活をしていました。
その住んでいたアパートなんですが、駅近くで立地も良かったのですが、線路のすぐ側にあり、その駅では飛び込み自殺の人が月に一度くらいはあるといういわくつきの場所だったのです。
その日も私は朝方、酒を飲んで酔っ払いの状態で帰って来たのですが、部屋に入るといつもは閉めているはずの台所の窓が開いたままになっていました。
同居人が開けたのかな?と思ったのですが、互いに線路が見える窓だけに不気味なので閉めておこうと約束していたので、不思議に思いながらもその窓を閉めて寝ようと思ったその時です。
窓の向こうの線路の上に赤い服を着た髪の長い女性が立っているのが見えたのです。
その瞬間、私の身体に鳥肌が一瞬にして広がりました。
それでも目を外そうにも外す事が出来ずに、彼女の方を見ていると、その女性の身体には下半身がありません。
霊感のある私は一瞬で気付いてしまいました。
(これはヤバい、見ちゃいけない奴だ!)と。
その瞬間、うつむき加減だった女性はゆっくりと顔を上げて私と目が合ってしまいました。しかも、彼女は笑ってたんです。
私は急いで窓を閉めて、布団に潜り込みお経を唱えました。
「南無阿弥陀、南無阿弥陀。私には何も出来ませんのでどうか立ち去って下さい」と。しかし、彼女の想いは強かったのでしょう。私の読経に合わせるように同じように南無阿弥陀と唱える声がゆっくりと近付いてくるのです。しかも女性の声で。
布団にくるまり、唱え続ける私の声のすぐ側まで、彼女の読経は近付いてきました。
(これはヤバい!本当に連れて行かれる!)
そう思った瞬間、私の耳元に生温かく吹き込むように女性が言いました。
「…私の苦しみを知って」
その瞬間、自分の中にナニかが入り込んだかと思うと、急にお腹の辺りが熱くなり、私は急に激しく嘔吐してしまいました。
ありったけの嘔吐をして身体は落ち着いたのですが彼女が、まだ身体の中にいると感じた私は翌日、同じく霊能力の強い友人の元に除霊を頼みに急いで行きました。
彼は私が来るのが分かっていたように準備をして、除霊をして私の中の彼女を何とか追い出す事が出来ました。
後日に霊媒師の友人から聞いた話ですが、私が昔、可愛がっていた愛犬がご主人様の事を想い、状況を説明に来てくれていたそうで。
それが無ければ、今の私が生きていられたかどうかはわからなかったそうです。