小雨の降る初春に執り行われた地鎮祭での出来事、神主の祝詞が始まってしばらくたったころ、近づいでくる足音。目を閉じたままの私の間近で交わされる男女の会話と去り行く足音。祝詞の内容を説明する神主の言葉から悟る二人の正体とは。
私の一家は家を建てるため近所の神主さんに来ていただき地鎮祭を執り行う事になりました
30年以上前の話ですが当日は少し寒さの残る春で小雨が降り続く悪天候でした。
新興住宅地として山を切り開き作られた土地ですが、当時はまだ家も少なく車の往来もまばらで、まだ小学生だった私にとって退屈な行事のはずだったのですが、ある出来事のせいで一生忘れられない日となったのです。
地鎮祭の参列者は私の家族と親せきを含めて7~8人でした。神主さんが土地にお神酒を捧げ、祝詞がはじまりました。
参列者も頭を垂れ目を閉じ、辺りが静まり返ってしばらくしたころ、どこからともなく下駄と草履で歩く足音と、布ではなく紙で出来たと思われる傘が雨をはじく音が聞こえてきました。
そしてその足音はどんどん近づいてきて、ついにはうちの敷地へと入り、私たち参列者の間近で立ち止まったのです。
近所の人かと不思議に思ったのですが
目を開ける気にはならずその気配に神経を集中させていると「この辺もずいぶん開けましたね、だけど動物には気の毒な事です」「そうだな」と言う男女の会話が聞こえて来ました。
私は地元に古くから住む近所の人だろう、人の家の地鎮祭にこの雨の中、わざわざ見に来るなんて物好きな人もいるものだとか、人の家の地鎮祭にきてベラベラとおしゃべりするなんてと思っているうちに、二人に対する関心が薄れていきました。
しばらくして、草履と下駄の足音は先ほどやって来たと思われる方角へと遠ざかり、神主の祝詞と雨音だけが聞こえる静けさが戻りました。
祝詞が終わり神主さんが今の祝詞について説明し始めました。
ちゃんとした名前は忘れてしまったのですが
「今、○○の尊(ミコト)と○○の姫をお呼びし、この土地を守って下さるようお願いしました。山を切り開いたこの土地には追いやられたキツネやタヌキといった動物の怨念も強いためそういったものも沈めて頂けるようお願いしました」と言うではありませんか。
私の頭の中で先ほどの男女の様子がグルグルと思い出され、何者だったのかが気になってしかたありませんでした。
地鎮祭も終わりやっと口が開ける雰囲気になったので、「さっき男の人と女の人がうちの地鎮祭に加わったよね?神主さんが祝詞あげているのにおしゃべりしてた人がいたでしょ」と早速みんなに聞いてみましたが私にしか聞こえていなかったようで、みんな心当たりがないと言います。なぜ目を開けてしっかり確認しなかったのかと後悔しました。
今となっては私の妄想だったのかと思うこともありますが、その後この地域で地震や台風のせいで大きな被害を受けた事が何度かあるのですが、なぜか何時も隣近所の家に守られるかたちで、近所中でこの家だけ不思議なくらい無傷で済んだ事が何度もあり、そのたびにあの時の足音はきっと神様の足音だったのだろう、その神様が今もうちを守って下さっているのだろうと感じずにはいられないのです。