洒落怖の名作「ヤマノケ」「双眼鏡」「鼻歌」

洒落にならない怖い話

洒落怖の名作、ヤマノケ、双眼鏡、鼻歌を紹介。ヤマノケは「テンソウメツ」の語源にもなった有名な洒落怖で娘と山道に行ったときの怖い話です。
双眼鏡を見た語り手が見てはいけないものを見た「双眼鏡」は背筋がゾっとする洒落怖です。
「鼻歌」は短編の怖い話ながらインパクトのある「恐怖」を感じるお話を猫と犬で語ります。

洒落怖の名作「ヤマノケ」

一週間前の話。

娘を連れてドライブに行った。
なんてことない山道を進んでいって、途中のドライブインで飯食って。
で、娘を脅かそうと思って、舗装されてない脇道に入り込んだ。
娘の制止が逆に面白くって、どんどん進んでいったんだ。
そしたら、急にエンジンが停まってしまった。
山奥だからケータイもつながらないし、車の知識もないから、娘と途方に暮れてしまった。
飯食ったドライブインも、歩いたら何時間かかるか。
で、しょうがないからその日は車中泊して、次の日の朝から歩いてドライブイン行くことにしたんだ。

車内で寒さをしのいでるうち、夜になった。
夜の山って何も音がしないのな。たまに風が吹いて木がザワザワ言うぐらいで。
で、どんどん時間が過ぎてって、娘は助手席で寝てしまった。
俺も寝るかと思って目を閉じてたら、何か聞こえてきた。
今思い出しても気味悪い、声だか音だかわからん感じで
「テン(ケン?)・・・ソウ・・・メツ・・・」って何度も繰り返してるんだ。
最初は聞き間違いだと思い込もうとして、目を閉じたままにしてたんだけど、
音がどんどん近づいてきてる気がして、たまらなくなって目を開けたんだ。

そしたら、白いのっぺりした何かが、めちゃくちゃな動きをしながら車に近づいてくるのが見えた。
形は『ウルトラマン』のジャミラみたいな、頭がないシルエットで、足は一本に見えた。
そいつが、
例えるなら『ケンケンしながら両手をめちゃくちゃに振り回して身体全体をぶれさせながら』向かってくる。
めちゃくちゃ怖くて叫びそうになったけど、なぜかそのときは、
隣で寝てる娘がおきないようにって変なとこに気が回って、叫ぶことも逃げることもできないでいた。
そいつはどんどん車に近づいてきたんだけど、どうも車の脇を通り過ぎていくようだった。
通り過ぎる間も、「テン・・・ソウ・・・メツ・・・」って音がずっと聞こえてた。

音が遠ざかっていって、後ろを振り返ってもそいつの姿が見えなかったから、ほっとして娘の方を向き直ったら、
そいつが助手席の窓の外にいた。
近くでみたら、頭がないと思ってたのに、胸のあたりに顔がついてる。
思い出したくもない、恐ろしい顔でニタニタ笑ってる。
俺は怖いを通り越して、娘に近づかれたって怒りが沸いてきて、「この野郎!!」って叫んだんだ。
叫んだとたんそいつは消えて、娘が跳ね起きた。
俺の怒鳴り声にびっくりして起きたのかと思って、娘にあやまろうと思ったら、
娘が「はいれたはいれたはいれたはいれたはいれたはいれたはいれたはいれたはいれた」ってぶつぶつ言ってる。

やばいと思って、何とかこの場を離れようとエンジンをダメ元でかけてみた。そしたらかかった。
急いで来た道を戻っていった。娘はとなりでまだつぶやいている。
早く人がいるとこに行きたくて、車を飛ばした。

ようやく街の明かりが見えてきて、ちょっと安心したが、
娘のつぶやきが、「はいれたはいれた」から「テン・・ソウ・・メツ・・」にいつの間にか変わってて、
顔も娘の顔じゃないみたいになってた。

家に帰るにも娘がこんな状態じゃ、って思って、目についた寺に駆け込んだ。
夜中だったが、寺の隣の住職が住んでるとこ?には明かりがついてて、娘を引きずりながらチャイムを押した。
住職らしき人が出てきて、娘を見るなり俺に向かって「何をやった!」って言ってきた。
山に入って変な奴を見たことを言うと、残念そうな顔をして、
「気休めにしかならないだろうが」と言いながらお経をあげて、娘の肩と背中をバンバン叩き出した。

住職が泊まってけというので、娘が心配だったこともあって、泊めてもらうことにした。
娘は『ヤマノケ(住職はそう呼んでた)』に憑かれたらしく、
49日経ってもこの状態が続くなら、一生このまま正気に戻ることはないらしい。
住職はそうならないように、娘を預かって、何とかヤマノケを追い出す努力はしてみると言ってくれた。
妻にも俺と住職から電話して、なんとか信じてもらった。
住職が言うには、あのまま家に帰っていたら、妻にもヤマノケが憑いてしまっただろうと。
ヤマノケは女に憑くらしく、完全にヤマノケを抜くまでは、妻も娘に会えないらしい。

一週間たったが、娘はまだ住職のとこにいる。毎日様子を見に行ってるが、もう娘じゃないみたいだ。
ニタニタ笑って、なんともいえない目つきで俺を見てくる。
早くもとの娘に戻って欲しい。

遊び半分で山には行くな。

(大まかな場所はどの辺?

(山の怪??

宮城と山形の県境だ。

俺もネットでその漢字で調べてみたけど、『ヤマノカイ』って読みしか出ない。
たぶん意味的には一緒なんだろうが。

(作並辺り?

(『山の化』でしょ

あんまり特定しないでくれ。違うとだけ言っとく。

モノノケが『物の怪』だから、ヤマノケは「山の怪」かと思ったんだがな。
知ってるのか?ヤマノケ。知ってたらどんなもんか教えて欲しい。

(特定しないけど、山寺側じゃないね。雪で冬季通行止めしてるし。(GW中でさえも雪多くて無理)
ヤマノケは知らないけど、水木しげるによると、
「だいたい山にすむ妖怪(山の神)といったものは、片目片足という通説がある」ってあったよ~。

(あやかしの類は、『怪』、『化』でも大差ない。
どうしても知りたいなら、和尚に尋ねるのが筋だ。

電話で住職に聞いた。
ヤマノケは、山の霊的な『悪意の総称』みたいなもんで、
姿を現したあいつ自体もヤマノケだし、そいつがとりついてる状態のこともヤマノケっていうんだと。
ヤマノケは『魑魅(チミ)』ともいうらしい。
女にだけ憑くのは、「山だから」っていうよくわからん理由。

住職にこのまま任せるべきか、それとも病院に連れてったほうがいいのか、妻と悩んでる。
ただ、俺がなんだかわからんものを見たのは確かだ。
それが関係しているとしたら、たぶん病院に行っても治らないだろうなとは思う。

(早めに霊的に強い坊さんを紹介してもらって、何とかしてもらった方がいい

(これ以上引っ張るなら実況スレへ行きな。

今預かってくれてる住職が、霊的にどの程度のもんなのかわからんから、それも迷ってる。
実家の両親とかはいろいろあたってくれてる。
今のところは住職頼みだ。

いや、実況してる余裕もあまりないんでな。これで最後にする。
なんで道を外れたのか、今は後悔ばかりしている。
その当時の精神状態が、すでにヤマノケに操られてたのかもしれない。なんて都合のいい考えか。

とにかく、遊び半分で山には入るな。彼女、奥さん、娘とかいるなら尚更。
本当にそれだけは言っておきたい。

洒落怖の名作「双眼鏡」

俺にはちょっと変な趣味があった。
その趣味って言うのが、夜中になると家の屋上に出て、そこから双眼鏡で自分の住んでいる街を観察すること。
いつもとは違う静まり返った街を観察するのが楽しい。
遠くに見えるおおきな給水タンクとか、
酔っ払いを乗せて坂道を登っていくタクシーとか、
ぽつんと佇むまぶしい自動販売機なんかを見ていると、妙にワクワクしてくる。

俺の家の西側には長い坂道があって、それがまっすぐ俺の家の方に向って下ってくる。
だから屋上から西側に目をやれば、その坂道の全体を正面から視界に納めることができるようになってるわけね。
その坂道の脇に設置されてる自動販売機を双眼鏡で見ながら、「あ、大きな蛾が飛んでるな~」なんて思っていたら、
坂道の一番上のほうから、物凄い勢いで下ってくる奴がいた。
「なんだ?」と思って双眼鏡で見てみたら、
全裸でガリガリに痩せた子供みたいな奴が、満面の笑みを浮かべながらこっちに手を振りつつ、猛スピードで走ってくる。
奴はあきらかにこっちの存在に気付いているし、俺と目も合いっぱなし。
ちょっとの間、あっけに取られて呆然と眺めていたけど、
なんだか凄くヤバイことになりそうな気がして、急いで階段を下りて家の中に逃げ込んだ。

ドアを閉めて、鍵をかけて、「うわーどうしようどうしよう、なんだよあれ!!」って怯えていたら、
ズダダダダダダッって屋上への階段を上る音が。
明らかに俺を探してる。
「凄いやばいことになっちゃったよ、どうしよう、まじで、なんだよあれ」って心の中でつぶやきながら、
声を潜めて物音を立てないように、リビングの真中でアイロン(武器)を両手で握って構えてた。

しばらくしたら、今度は階段をズダダダダッって下りる音。
もう、バカになりそうなくらいガタガタ震えていたら、
ドアをダンダンダンダンダンダン!!って叩いて、
チャイムをピンポンピンポン!ピポポン!ピポン!!と鳴らしてくる。
「ウッ、ンーッ!ウッ、ンーッ!」って感じで、奴のうめき声も聴こえる。
心臓が一瞬とまって、物凄い勢い脈打ち始めた。
さらにガクガク震えながら息を潜めていると、
数十秒くらいでノックもチャイムもうめき声止んで、元の静かな状態に……。

それでも当然、緊張が解けるわけがなく、日が昇るまでアイロンを構えて硬直していた。
あいつはいったい何者だったんだ。
もう二度と、夜中に双眼鏡なんか覗かない。

洒落怖の名作「鼻歌」

現在も住んでいる自宅での話

今私が住んでいる場所は特に曰くも無く、昔から我が家系が住んでいる土地なのでこの家に住んでいれば恐怖体験は自分には起こらないと思っていました。
ここ最近ですが、リビングにいると昼夜を問わず、女性の低い声で鼻歌が聴こえてきます。
「ん~…ん~ん~…」
最初はよ~く耳をすまさなければ気づかないほどに遠くから聴こえてくるのですが、放っておくとどんどん近づいてきます。
「ん~…ん~ん~…」
それでも放っておくと、意識を集中しなくても聴こえるほどに近づいてきます
「ん~…ん~ん~…」
なので私は、その声に気づいたらいつも般若心経の最後の部分を繰り返し唱えるようにしています。(これしか知らないもので……)
とにかく般若心経の「ぎゃーていぎゃーてい」のくだりを唱え続けると、声はだんだん遠ざかっていきます。
このリビングではテレビにも集中できません。
声が聴こえ始めるのは完全に不定期ですし、早く声に気づいて般若心経を唱え始めなければ、時としてそれは部屋にまで入ってきます。
「ん~…ん~ん~…」

そういえばこの前、大好きなバンドのニューアルバムが発売されました。
発売日を楽しみにしていたので、お店で買った時はもうテンション↑↑
さっそく家に帰ってヘッドフォンで聴いて、一通り聴き終え、
よかったな~と余韻に浸りながらヘッドフォンを取ったら耳元で

「ん゛ん゛ーーーーーーーーーーーーーーー」

って。