闘病中の父が頭の中に語りかけてきた不思議な体験談

不思議な体験談

「今日は、ふゆのの誕生日だな~」。普段、家族の誕生日を全然気にしていない父でしたが、その日の私の誕生日には、母の前でふと呟いて目をつぶったそうです。母は、今までに見たことがない父の物憂げで寂しそうな姿に、違和感を感じたと言っていました。

それから、一週間が経ったある日の朝、電話がなりました。

「もしもし・・・。」私が電話に出ると、「お父さんが目を覚まさない。救急車を呼んで、緊急手術になったから直ぐに帰って来て!」母の声は、せっぱ詰まっていて震えていました。

私は、取り敢えず2、3日分の衣類を旅行鞄に詰め込み病院へ急ぎました。病院へ着くと父はまだ手術中で、それから何時間もの長い間、母と私は待合室で無言で待っていました。どれ位の時間が経ったのかわかりません。

「先生からお話があります。」と看護師に呼ばれ、母と私は別室に案内されました。執刀した担当医から、手術は成功したが出血が多かった事、その他の病状を説明され、父が目覚めるのを待ちました。父の闘病生活の始まりでした。

父が入院して何日が経ったでしょうか?専業主婦だった母は、看病疲れと明日への不安で精神的に追い込まれ、母の側で励まし付き添っていた私もまいっていたのかもしれません。

ある夜の入浴中の事でした。「ふゆの・・・ふゆの・・・。」突然、私の頭の中に声が聞こえてきました。父が私を呼ぶ声でした。気のせいだとわかっていても胸騒ぎがし、父が私を呼んでいる声を無視する事も出来ませんでした。

私は、急いでお風呂から出て、母に、父に呼ばれたような気がしたと話しました。

病人へ行った方が良いかと母と相談しましたが、夜遅かったので面会時間は終了しているし、何かあったら病院から連絡がくるから明日にしようと決めました。とても不安で、辛い夜でした。

翌日病院へ行って、昨晩父は何事も無かったのかと看護師に伺いました。すると、異変があって血圧が急降下し一時危険な状態になったという事でした。時間を聞いてみると、私が呼ばれた時でした。母と私は顔を見合わせて、苦しかった父が呼んだのだと思いました。それからも父の闘病生活は続き、だんだんとやせ細り意識も無くなりました。そして、数カ月後、母と私が手を取り見守る中、父は息を引き取りました。

父の葬儀が終わり、遺品の整理をしながら一週間が過ぎようとした時です。もうすぐ初七日だから、父を偲んで父の部屋で眠ろうと母と決めました。母と私は、父が生前寝ていた布団に入り、父との思い出を語り合いました。

横を見ると母は寝入っていました。いつの間にか、私も眠っていたのでしょうか?ふと人の気配を感じて、ドアの方をみました。なにやら人影が見えました。不思議と恐怖感も無く人影に目を凝らすと、棟から上の上半身の真っ黒の人影が私達を静視していました。「お父さん・・お父さんだ!」顔も分かりませんでしたが、直感しました。そして、私はなんだかとても温かい気持ちになり、深い眠りに入っていきました。翌朝、この事を母に話すと母も父を感じたそうです。

実際、どうだったのかはわかりません。ただ、私は思います。親しい人の気持ちは、繋がっているのだと。