美しい蝶々が舞う日に憑依した女の子の怖い話

不思議な体験談

去年の夏。戦死した方々の慰霊碑にお参りをした時のことです。
わたしは「どうか、来世で幸せになってください。あなた方の苦しみが解き放たれますように。来世で笑って生きられますように」と祈りました。

その慰霊碑の周りを、ひらひらと美しい淡紫のシジミチョウに似た蝶々が舞っていました。

きっと、戦死した方の魂の化身なのでしょう。何故そう思ったのというと、その蝶々は花ではなく、蜜が無さそうな草木の周りを飛んでいたからです。普通の蝶々とは違うと思いました。

それからわたしは、淡紫の蝶々に会うのが楽しみになり、あの綺麗な蝶々をまた見たいと、一週間置きごとに慰霊碑に足を運ぶようになりました。

そんなある日のこと。わたしは急に怪談ものの小説が書きたくなって、慰霊碑の前で突然、餓死した魂が妖怪となってしまった畑怨霊(はたおんりょう)の話を思いつきました。戦争中に餓死してしまった女の子が……話の構想が浮かんだ、その瞬間、急に背筋が寒くなりました。

その後、一人でスーパーに行った時に、チョコレート菓子売り場から異様な寒気がしました。何もないのに、何故かそこだけが寒いのです。

それから家に帰り、わたしは早速、携帯電話で畑怨霊の話を書き出しました。よし、保存しよう!と思って保存すると、打っていた間は何ともなかったのに、保存して開いたら、何故か文字化けして作品が読めなくなっていたのです。数字や記号や、意味不明の言葉になっていない文字たち。しかも、何度書き直しても、文字化けは新しく出来てしまうのです。

それから、一週間くらい続けて、仕事で不運がありました。

ミスをして怒られることの連続です。何かがおかしい。と思ったわたしは、霊能者に憑依されていないかの診断を依頼しました。

……結果は、100年以上前の餓死した女の子の霊が、わたしに取り憑いていたそうです。すぐに霊能者に頼んで浄霊をしていただきました。それから、仕事の不運は一切無くなりました。携帯で文章を打っても文字化けすることが無くなりました。
霊がわたしに憑依するということは、霊とわたしにとって意味があることなのかも知れません。打っていた作品が文字化けになってしまったということは、その作品をこの世の中に出して欲しくないと、女の子の魂が訴えているからだと思うのです。そう思ったら、わたしに憑依した魂は、別に悪いものでも怖いものでもないのだと解りました。

「わたしみたいに、苦しい思いをした人がすべて、人間を呪って殺そうとしているわけじゃない。そんなひどいことを書かないで! お願いだから。わたしは、誤解されたくないの!わたしを悪い妖怪にしないで!」

今、思えば、きっと、彼女のそんな思いが、わたしに取り憑いた理由なのでしょう。
それから、わたしはその話を携帯から消去しました。
霊能者に浄霊されてから思ったのですが、もしかしたら、憑依された方々は、その霊との関わりが何かしらあるのかも知れません。

例えば、憑依された人が霊を極端に怖がったり、悲しんでいたり。今回のわたしのように、霊にとってつらいことをしようとしていたり……。
もし、そうだとしたら憑依した霊は、加害者ではなく被害者なのかも知れません。