その会社は、出版印刷会社で、私は良く遅くまで残業をしていました。たまに昼休みに先輩方が、この会社には幽霊が出る。視線を感じたり、女性を見かけたり、影が通り過ぎるのを見たりすることがある。と話しているのを聴いても、さして気にも留めていませんでした。
その場所は戦争中に病院があった場所で
特に女性の更衣室周辺は、遺体安置所だったというのです。確かに日中入っても急に電気が急に切れて暗くなったりすることがありましたが、私は、そんなに気にもしていませんでした。その日の夜までは。。その日は偶然、遅くまで残ったのは私一人、と数名の男性社員でした。
日々、パソコンと只管向き合って作業をしていて激務だったため、またその日は10時を過ぎていたためもう限界だったと思います。私は、階下へ一人降りて行き、更衣室へ入りました。電気をつけ、一人黙々とただぼんやりと着替えを始めたのでした。
ふと気がつくと、遠くの方でバイクが鳴っている音が聞こえているのに気がついた私は、我に少し返りました。確か真夏の夜だったため、都会の中を走る暴走族かなんかの良く耳にする音だと感じました。そのままそのバイクの音を聴きながら半分服を着替えた時点で、私はその時急に、強く正気に戻ったのです。その声は、バイクの音なんかじゃない。。。。
私は耳の感覚を研ぎ澄ますように音のする方を探りました。
その時、そのバイクの音と思ったものは、なんと自分が立っているロッカーの横の壁から聞こえ、壁を伝って耳を澄ますと下の方から聞こえてくるのが分かってしまったのです。そしてその声ははっきりと低い女性のもので、うぅん、うぅんと呟くような唸るようなものが只管響いて来ているのでした。
もうそれからどうなったのかは、良く分からないほど私は混乱し、どう着替えたかも覚えていません。持てるものを持ってロッカーから走り出たのだと思います。会社から飛び出て、どう駅まで辿りついたのかもその間の覚えが無いほど、無我夢中でした。
駅で呆然としながらも定期を落としているのには気がつき、歩いてまた会社の前まで泣きたい気持ちで戻ったのを覚えています。それから私は、残業ノイローゼとなり、しばらくして会社を退職しました。もしあの時、いつも昼間に起こるように電気が消えるようなことが起きていたら、私はどういう状態に陥ってしまったことかと想像すると、今でも恐怖にとらわれます。
その後も、沢山の心霊体験をした先輩が出たということは、後に友達から聞いていますが、その場所はなかなか会社が長続きしないそうです。そして、今でもそのビルは存在しています。