亡くなったばかりの祖父が、孫の私達に会いに来て、家のドアを何度もノックしました。私達には見えないので、誰もいないのにノックの音がするのがとても怖いです。そんな中で、電話が鳴って、祖父が亡くなったことが告げられると、ノックの音は止んでいました。
子供の頃のこと私は妹二人と父母と千葉のとある町で暮らしていました。ある時、母方の祖父が重い喘息にかかり、療養のために海辺の空気がきれいなところに引っ越しました。私は母や妹とお見舞いに行きました。祖父に会うのは何年ぶりかのことだったので、とても喜んでくれました。祖父は私たちを喜ばせようと、お小遣いやお菓子をたくさんくれました。
そのときは、少し咳が出るものの普通に話しができたし、思ったよりも元気だなと思って帰ってきました。帰り際、海の見える縁側が珍しくて気に入ってしまい、また来たいと言ったら、祖父がとても嬉しそうにしていたのを憶えています。
私はまたあの海辺の家に行きたかったのですが、なかなか行く機会のないまま時は流れ、その間祖父の病状なども子供の私達には伝えられることはありませんでした。実際は悪くなって入院していて、あの家にはいなかったのではないかと思います。
そしてある日のこと仕事に行っている父を除いて家族全員が茶の間にいるときに、玄関をノックする音がはっきり聞こえました。私が玄関に出ていったのですが、玄関前には誰もいません。
そして私が茶の間に戻ると、またノックの音がするのです。今度は妹が出ますが、やはり誰もいません。戻るとまたノック…みんな怖くて、顔を見合わせていました。
そこへ電話がかかってきました。母が出て、え?と顔を曇らせ、電話を切ると、ぽつりと、さっきおじいちゃん亡くなったって、と私達に言いました。ノックの音は止んでいました。
その瞬間、あのノックは祖父だなと思いました。向こうに行く前に、会いに来てくれたのだなと。
ノックの音がしてるとき、電話がかかってきたとき、怖かったのですが、祖父だと思ったら少し怖さが和らぎました。
会いに来てくれてありがとう。あの後、会いに行けなくてごめんね。祖父の霊にお参りするときはいつも、そう言葉をかけています。