これは僕が中学2年生のときの体験です。
山梨県在住。Iさんの体験談。
体育の授業で体育館に集まりました。12月でかなり寒い日だったので、ジャージ姿のクラスメイトはみんな震えています。
そんな中、K君という子は一人だけ太もも丸出しの超短い短パンを履いていました。
上は長袖ジャージで、ハイソックスを履いていますが、それでも見てるこっちが寒くなります。
「寒くないのかよ?」なんてK君に聞く子もいます。すると彼は「寒ーい」って答えます。「なんだよそれ」と周りは呆れています。
よく見るとK君の太ももは鳥肌たっています。
「Kのやつ、自意識過剰だよな。可愛いって分かってて、いつも短パンなんだ」なんて陰口叩く子もいました。
確かにK君は、女の子のような可愛い顔をして、短パン姿もよく似合います。
そのときです。何か違和感を感じました。
彼の短パン姿、いつもだったっけ?
しかし先生が来て授業が始まったので、必死に気を取り直しました。
準備体操が終わり、グループ分けしてバスケの試合が始まりました。
次の試合に回されたグループの子は、好き勝手に遊びだします。
すると馬飛びを始めた子たちがいて、K君も加わっています。
K君が馬になると、跳んだ子に潰されました。
「うわあっ……あぁ」とクラスメイトに乗られて、うめき声をあげるK君。
すると面白がって、その子はさらにK君に体重をかけます。
そしたら「うっ……ふうん……」と、か細い声を出してK君はグッタリしたので、ようやく乗ってる子は下りました。
しかしK君は倒れたまま動きません。
「いつまで寝てんだよ」「だらしないなあ」なんて揶揄いながら、他の子たちも集まってきます。
すると「あざといよな、Kって」なんてまた陰口を叩かれます。
そうなのです。目を閉じて、口はポカンと半開きで倒れているK君の姿は、なんとも艶めかしいのです。
クラスの子たちは、そんな彼を嬉しそうに見てますし、バスケの試合をしてる子たちも気になって仕方ないようです。
「Kのやつ、またやってるな」なんて先生も呆れたように言ってます。
するとまた脳が揺れるような違和感を感じました。
エッ!?また?
K君って、いつもあんな風に倒れてるんだっけ?
いや、違います。
そもそもK君みたいな子、いたんだっけ?
そう思い始めると、何もかもおかしいような気がしてきました。
数分してやっとK君は起き上がると、ポカンとしながら「あれ?僕どうしてたんだろう?あっ、上に乗られて息が出来なくて失神しちゃったんだ」なんて言います。
周りのみんなは「ハイハイ」なんて揶揄います。
そして前のグループの試合が終わり、K君のグループの番になりました。
K君は走りまわってます。
「Kのやつ、全然元気。やっぱ演技じゃねえか」って突っ込む子もいました。
しかし僕の違和感は徐々に強烈になってきました。
あんな子今までいなかったよ。なんでみんな、前からいるように振舞ってるの?
あれ、でもよく考えてみると、なんで僕はあの子の名前がK君だって知ってたんだろう?
僕が記憶障害なのでしょうか?
するとドリブルするK君の脇腹に、敵チームの子の肘が軽くあたりました。
彼は「あっ……あっ……」と脇腹を押さえて倒れて、また動かなくなりました。
「軽く当たっただけじゃん」「何ともないくせに」と、妙に色気があるK君を見ながら、嬉しそうに揶揄うクラスメイトたち。
しかしその声が、段々間近で聞こえてくるのです。
「試合中だぞ!いい加減起きろ!」と先生の怒鳴り声が聞こえて、僕は慌てて起きました。
そして僕は「肘が入って、分かんなくなってました」と言います。
すると先生は「太もも出してずっと倒れてて、床冷たくないのか?」と言います。
僕は「冷たかったです」と思わず口に出してしまいます。
先生は「やっぱ演技だったんだな」と突っ込んで、みんな大笑いです。
そこでハッと気が付きました。
そうです、僕がK君だったのです。
つまり僕は、ずっと自分の姿を見ていたことになります。
なんでこんなことが起こったのか、怖くなりました。
体育の先生に相談すると、「君のこと周りがどう見てるのか、分からせようとした何者かの仕業じゃない?」なんて言いました。
何者かって、そこが気になるんですけどね。
でも確かに、僕はクラスメイトからどんな風に見られてるかよく分かりました。
そして1か月後、体育の先生からは「あれ以来、前よりもあざとくなったな」って呆れたように言われました。