「見えない誰か」との一夜 先輩を襲った不思議な騒音の正体とは

笑える心霊体験談

大阪から寝台列車に乗って、ミステリーツアーのスタート地点となる青森へ。到着するとまずは、適当なビジネスホテルを見つけて予約しました。女子旅ですから、ツインの部屋を確保したかったのですが、その日はちょうどシングル2室しか空いてないとのことでした。チェックインして、まずは各自の部屋へ荷物を置き、街へ繰り出そう!ということになりましたが…。

20年ほど前、「ミステリーツアー」と称して同業の先輩と東北旅行に出かけた時のことです。

私は、部屋のドアを開けた瞬間、なんとなく地下室のようだと感じました。手前にベッドがあり、正面奥には自然光が降り注ぐ窓、その下にソファが配置されているのですが、暗くてじめっとした感じがするのです。
先輩の部屋は廊下に沿って同じ並びでしたが隣同士ではなく、私と先輩の部屋の間にひと部屋挟んでいました。

部屋の雰囲気が気になったので先輩の部屋へ行ってみると、当然同じ間取り。正面の窓からは燦々と陽の光が差し込み、とても明るい雰囲気でした。
思わず、「私の部屋、地下みたいな感じなんですよね…」とつぶやくと、「もうやめてよ!怖いこと言わんといて!」と先輩。この旅の最大の目的は、座敷わらしの出る宿に泊まることなのに、彼女はとても怖がりだったのです。

さて、その後、私たちは晩ご飯を食べに出かけました。初めて訪れた街を散策。演歌に出てくるような居酒屋では、“あちらのお客様から”とおじさんグループから瓶ビールをいただいたり、カラオケBoxで大声を張り上げたり…。楽しい時間はあっという間で、気づくと深夜0時前でした。
タクシーでホテルに戻りましたが、車中、私の気分は重くなっていました。
やっぱり、あの部屋が怖かったのです。

寝る前に、先輩の部屋で翌日の予定を確認し合っている間も、頭のなかには『フロントに部屋を変えて欲しいと申し出るべきか…いや、こんな夜中に迷惑だし…そもそも、今日はこの2室しか空いてなかったんだっけ…、先輩、部屋変わってくれないかな……』と、部屋のことがグルグル回っていました。

そして、「明日も早いし、もう寝よか」と先輩。私は遂にこの時が来たかと観念しましたが、口をついて出た言葉は「おやすみなさい」ではなく、「あの部屋、怖いんですよね…」。
「もう!やめてって言ってるやん。怒るよ!早く寝よう!」と先輩に追い出されました。

部屋へ戻ると午前1時を過ぎていました。

静けさに耐えられずテレビをつけてから、シャワーを浴び、髪を乾かし終えたころでした。
《トントン、トントントン、トントントン…》
ドアがノックされたのです。
私は、怖くなった先輩が眠れずにこちらに来たのかと思いました。とても嬉しくて、「はーい!」と声を上げてドアへ駆け寄りました。
勢いよくドアを開けると…。
ハッ!としました。

ドアノブを握って押し開けた脇の下を、見えない何かがサッとすり抜けたのです。
部屋を振り返っても、“見た目に”は誰もいません。
でも、確かに人の気配がする!
ソファに“誰か”が座っているのが分かるのです。
そこからの行動は、自分でもよく分かりません。

何故か、そのソファの上に洋服や化粧品など持ち物をずらりと並べました。おかしな人の気配を消したかったのかもしれません。
時刻は午前2時を過ぎていました。テレビの番組も終了していたので、ラジオをつけてベッドへもぐりこみました。
でも、ソファが、いえ、人の気配がとても気になり布団から顔を出して見てみると、やはり、“誰か”がうつむき加減に座っています。
私は眠れませんでした。怖過ぎて、逆にその人影をにらみつけ、じっとしていたと思います。

窓の外がうす青くなり、小鳥のさえずりが聞こえてきたころ、スッと人の気配が消えました。
それから、3時間ほど眠れたと思います。
チェックアウトをして、ロビーで先輩と落ち合いました。先輩は開口一番、
「ちゃんと寝られた?私、全然寝られへんかったわー。フロントに文句言うたろかと思ったけどさぁ、夜中やしなぁ」。
私は驚いて、「何があったんですか?」と尋ねました。

すると、「え?うるさかったやん、私たちの間の部屋の人」というのです。
しかし、私の部屋に“見えない人”の訪問はありましたが、とても静かに座っていただけ。小さなラジオの音しか聞いていませんでした。
先輩曰く、「家具とか投げてはったと思うで。ベッドの壁にものすごい音で物がぶつかって来たし。夫婦喧嘩かなぁ。ドアも何回も開けたり閉めたりしてはったよ。聞こえへんかった?」。
あぁ、間違いない!私たちの間に挟まれた部屋で、過去に何かがあったのだろうと思いました。
きっと、あの“見えない人”は、恐ろしい喧嘩から私の部屋へと逃げてきたのでしょうね。