中学三年生の初夏。夜に勉強をする方がはかどるので連日そうしていた。AM2時、限界。試験勉強を終えて、ベッドに。完全に眠りに落ちる前、急に全身が硬く、身動き一つとれなくなる。助けて、そう家族に助けを求めたくても声は出ない。天井をただ見つめることしか出来ないでいると、天井のあたりがぼんやりと濁ってくる。
なんだろう、こわい。よく見えない。
なんだかふわふわとしている。だんだんはっきりとしてきたものは着物を羽織った女性の骸骨だった。赤?桃色?の着物。血のような赤だったように思う。頭蓋骨からは長い髪の毛がふわふわと乱れ舞う。怖い。恐ろしい。動けない。声も出ない。段々と、天井から、横たわるだけの私に近づいてくる。連れて行かないで!何故だか心の中でそう叫ぶ私。
来ないで、ではなく連れて行かないで、だった。何故だったのだろうか。叫びは叫びにならず、ゆっくりと舞い降りてくる。何もできない。でも連れて行かれたくはない。気づくと、小さな頃におばあちゃんが仏壇にむかって唱えていた念仏を必死に唱えていた。南無妙法蓮華経南無妙法蓮華経南無妙法蓮華経とにかく何度も、声にならないので、心の中で。
南無妙法蓮華経南無妙法蓮華経南無妙法蓮華経
ひたすらに、続けた。それしかできない。すると両腕をギュッと掴まれている感触を覚える。私は背中をベッドにつけている。両サイドには誰もいない、見えない。気配もない。ありえないことに、後ろからひっぱられている感覚だった。背中はベッドについているのだから後ろから誰かにひっぱられることは不可能であるし。目の前には着物を羽織った骸骨、背後からは見えない何者か、パニックで震えることもできない。
涙を流すこともできない。もう嫌だ、怖い、助けて。
南無妙法蓮華経南無妙法蓮華経それだけ。諦めずに続けた。南無妙ほ、、、目の前が真っ暗になる。意識を失う。骸骨のことも、腕の掴まれていた感覚もわからない。
どれくらい経ったのだろうか、目を覚ますことができた。よかった、、、!!連れて行かれなかったんだ。大丈夫なんだ、もう大丈夫だと思いたい、額は汗でぐっしょりとしていた。手を動かしてみる、動く。身体を左右に揺らしてみる、動ける。一気に緊張が解け、身体中の力が抜ける。恐かった恐かった、なんだったのだろう。誰と、誰、だったのだろうか。とにかくもう大丈夫、だろう。ふっ、、と気を失うように眠りについた。
朝、いつもの時間に目覚まし時計がなる。ハッ!と大きく息を吸い込み身体が柔らかく動くのを感じる。あれは、夢?夢かな、疲れてたからかな。とにかく恐かった夢なら夢であってほしい。両腕には、まだ、つかまれた感触が残ることには気づかないフリをした。つかまれたのは、私が連れて行かれないように、誰か、が守ってくれたのかな?そう思うのが一番な気がした。