眠っているのは母じゃなかった。誰だったんだろう。

不思議な体験談

今から13年前、僕が新卒で働き出した頃の話です。

島根県在住。Eさんの体験談。

工場に入港する外国船のための代理店という職業についていました。工場は24時間稼働しているということもあり、帰宅するのはいつも夜遅くでした。その頃はまだ結婚もしておらず、自宅住まいで、帰宅したら両親はすでに眠っているのが常でした。

その日も22時頃に仕事を終えて帰宅しました。食事を用意してもらっている居間は家の奥にあり、そこに行くためには母の眠る和室の前を通る必要があります。

僕はいつも通り、そっと母の眠っている寝室を覗きました。豆電球一つの下で、布団が膨らんでいました。

布団に小さく「ただいま」と声をかけると、「うん」とだけ返ってきました。僕は居間に向かいました。居間のドアを開けると、そこには母がいて、テーブルで趣味のナンプレに熱中していました。僕はひどく驚きました。

「今、布団で眠ってなかった?」

母は不思議そうに僕を見返します。

「今日は調子がいいからずっとここでナンプレをしてるよ」

僕は慌てて廊下に飛び出て和室に向かって引き返しました。和室の扉を開け放つと、豆電球一つの下で布団はすでにめくれていて、そこには誰もいませんでした。

何があったのかわからずに混乱してしまった僕は、布団に近付く気にもなれずに和室の前で立ち尽くしてしまいました。

そんな僕の後ろから母がやってきて、「何かあったの?」と聞いてきました。僕は今あったことを早口で説明しました。

母は黙って全部聞いてくれたあと、「それって本当に私の声だった?」と聞いてきました。

そこで初めて気が付きました。どうしてその時は疑問に思わなかったのかわかりませんが、最初に布団に「ただいま」と話しかけたときに返ってきた「うん」は、明らかに母の声ではない女の人の声でした。

僕は一瞬だけゾッとしましたが、疲れた頭では理解が追いつかず、恐怖はあんまり感じていませんでした。

今思い返せばはっきり「怖い」と感じますが、当時は仕事で忙しかったこともあって、その出来事を忘れはしなかったものの、喉元過ぎればなんとやらといった感じで飲み会の話の種にするくらいでした。

その後に母から聞いた話ですが(少し変わっている僕の母の出身は田舎の山奥で、昔から身の回りで不思議なことがあったらしいのですが)、我が家では昔からたまに不思議なことがあったそうで、母からしたらそれほど驚くことでは無かったそうです。

母が深夜にトイレに起きたら

家の前の通りを5人くらいの小さな子どもがはしゃぎながら走っている声がして、窓を開けたら声だけが目の前を通り過ぎていったこともあったそうです。

また、家の隣はずっと駐車場なのですが、僕が生まれる前にはボロボロの小屋があって、そこには怪しい外国人が住んでいたそうです。いつの間にかその外国人はいなくなって、小屋の玄関は外側から木の板で頑丈に打ち付けられて、朽ち果てたと思ったらそのまま取り壊されて駐車場になったという話も聞きました。

そんな怪しくて面白そうな話をどうしてもっと早く教えてくれなかったのかと聞くと、「大したこととは思わなかったから」と言われました。母は少し変わっています。

今、僕は結婚して、子供も二人います。そして、かつてそんなことがあった実家をリフォームしてそこにまだ暮らしています。今のところ不思議なことには遭遇していませんが、念のため、和室だったところには小さな神棚を設置しました。以上です。