これは、私が高校生の時の先生が体験したお話です。
私が通っていた高校は、制服が可愛いと評判の私立のA学園高校で、
その制服が着たくて学校を選ぶ子も多くて、私もその一人でした。
ある時、生物のY田先生が、授業で生命についての話をしているときに、Y田先生が思いついたように、不思議な話をしてくれました。
当時から10年前の話なんだけど、とぽつりぽつりと話してくれたのは、こんな話でした。
高校の受験シーズンの中、A学園高校を受験してきた女子生徒の中に、
心臓に大病を患っている生徒がいたそうです。
女子生徒は学力が高く、成績は優秀だったのですが、その病気のせいで、入学させるかが職員会議になったんだそうです。
職員会議の中で、何かあったら責任が持てない、病気のある状態で入学して、他の生徒が動揺するのではないか。などと、ほとんどの教員が女子生徒の入学を反対していた中、Y田先生は、責任は自分が持つ、家族とも常に連絡を取り合うようにするからと、女子生徒が入学できるよう他の先生を説得し、女子生徒の入学が決まりました。
後日、女性生徒の母親からY田先生に泣きながらお礼の電話があったそうです。
女子生徒は母親に「A学園高校の制服が着たいから、入院も手術も頑張る」と言っていて、「だから、絶対に合格してあの制服を着る」と頑張っていたのだそうで、合格を知ると、最近では見られなかった笑顔でよろこんでいたそうです。
いよいよ来月、待ちに待った入学式が後2週間後に差し掛かったある日、職員室の電話がなりました。
電話の相手は、女子生徒の母親からでした。その内容は、女子生徒が昨晩、亡くなったという連絡でした。
Y田先生も愕然として、しばらく体に力が入らなかったそうです。
気落ちする中、その日自宅に帰ると、見覚えのない小さな箱が食卓に置いてあったそうです。家族に聞いても、誰も知らないと言います。
何かと思い、手に取ると、カタカタと音が鳴りました。
箱を開けてみると、中には何もなく、空っぽでした。
Y田先生は、なんとなく捨てられなくて、自分の書斎の引き出しにしまったそうです。
次の日、女子生徒の母親が、Y田先生を訪ねて学校にきてお願いをされたそうです。
「入学式前だが、どうしても着たかった制服を着せて、火葬の前に、学校の周りを一周まわらせてもらえないか」というお願いだったそうです。
Y田先生は「もちろんいいですよ。他に何かできることがあったらおっしゃってください。」と伝えたと言っていました。
そして、その日も帰宅すると小さな白い箱が食卓に置いてあったそうです。
振るとカタカタ音が鳴るのに、何も入っていない。
念のため、引き出しを見てみると、一つはちゃんと引き出しに入っていて、小さな白い箱は2個になりました。
不思議と怖いとは思わなかったそうです。
小さな白い箱は、その次の日も置いてあったそうです。
中身は、やっぱり何もない。
箱が置かれるようになって4日目、少女のお葬式も終わり、約束していた通り、制服を着て学校の周りをぐるっとまわったそうです。
4日目にY田先生が帰宅すると、もう小さな白い箱は置いてありませんでした。
引き出しを開けてみたら、3つあるはずの白い箱は無くなっていました。
どこを探しても、家族に聞いてみても、白い箱は出てきませんでした。
Y田先生は、「今になって思うと、女子生徒が何か気持ちを伝えたくて届けてくれたのかもなぁ」と話していました。
今でも、本当のところは分からないそうですが、私は、きっと女子生徒がY田先生にお礼を伝えたくて置いていたんじゃないかなと思います。