じっとしていられなかった、やんちゃな日本人形

不思議な体験談

子どもの頃、私と姉の部屋には、日本人形が2体ありました。

新潟県在住。Kさんの体験談。

祖母が、私たちが生まれたときに1体ずつ購入したもので、「姉の人形」、「私の人形」と1体ずつケースに入って大切に飾られていました。

小さな頃から祖母に「これはあんたなんだよ」と言われながら眺めて育ってきたので、飾られていることにも何の違和感も感じていませんでした。

姉の人形の方が少しケースの背景や着物の柄が地味で、私の人形の方が少し派手な印象でした。

顔立ちもどことなく姉の人形は優しげで穏やか、私のは少し勝ち気な表情に思えました。

私は時々そうやって人形をぼーっと眺めていたものでした。ある日、ふと人形を見ると、私の人形だけ髪の毛が乱れ、口紅がはがれていることに気がつきました。

祖母に言うと、祖母は私の人形をケースから出して

やさしく髪を梳かしながら「たまにはこうやってお手入れしてあげないと、かわいそうだよ」と言いました。

私は幼いながらも、「ケースに入ってるのにそんな風に出してお世話しないとだめなのかなあ・・・ちょっと嫌だな。」と思ったものです。

それから、口紅は購入したお店に持って行ってきれいに塗り直してもらいました。

ところが、その後も何度も口紅は剥げてしまい、髪も乱れてしまうのです。

母と冗談まじりに「夜中にどこかに遊びに行っているのかもしれないね」などと言っていたのですが、私は少し気味が悪くなっていました。

姉の人形は何も変わる事なく

きれいにケースに入って穏やかな表情を浮かべたままだったから。

なんで、私のだけこんなに乱れるんだろう。そんな風に思っていたある日、今度は人形の右手の向きが変わっていることに気がつきました。

通常であれば手のひらが体の方に向いている状態なのに、右手だけ前方に手のひらが向いた状態になっていたのです。

わたしは怖くなって、自分の右手に何か良くない事が起こる暗示なんじゃないかと思いましたが、幸い何も起こりませんでした。

私たち姉妹は、成長するにつれ「日本人形」という存在自体がなんだか不気味なものという認識を持ち始めたのと、過去の私の人形のエピソードも相まって、いよいよ母に自室にある人形を別の部屋に移して欲しい、と訴えました。

そうして、階下の和室に人形たちは移されました。

移してからしばらくたったある夜、もう私たちがすっかり寝静まったはずの時間に階下にいた母は、ちょうど真上にある私たちの部屋から、子どもが走り回るような足音を聞いたというのです。

まだ起きてるのかと思って様子を見に行ったところ、私たちはぐっすりと眠っていたそうで、翌朝母がそんな話をしながら、「もしかしたら人形があんたたちの部屋にいたくて戻ってたのかもしれないね」と言いました。

その後大きくなった私たち姉妹は、人形に気を止めることもなくなり、人形の存在をすっかり忘れてしまうようになりました。それぞれの道にすすみ、結婚・出産もしたところでそろそろ人形を処分してもいいのではないかという話になり、購入してくれた年老いた祖母も「おまえたちもそれぞれ幸せになってくれて、もう、人形の役目は終わっただろうからいいよ」と言ってくれたのをきっかけに、供養していただけるお寺へ持って行ってもらったそうです。

今思えばわたしたちの成長を見守ってくれながら、ちょっとお転婆だった私の身代わりにもなっていてくれたのかもしれない、と思っています。