コックリさんの遊びが流行ったのは夏のことでした。当時仲の良かった友達3人と、退屈な夏休みに集まって、コックリさんの儀式を私たちは始めたのでした。紙に文字を書き、鳥居に硬貨を置き、霊を呼び出す。
子供心にも半身半疑で、またこの不思議な儀式に、雰囲気に、すかっかり夢中でした。
呼び出す段階になりました。子供にとっては硬貨が動き出すのを待つ忍耐は浅く、すぐに緊張しただけになあんだ、という安心感がお互いに伝わり、目を見合わせて笑いました。そして指を置いたままテーブルにうつ伏せたりして遊び始めたのです。しかしそのときでした。
いきなり硬貨が勢いよく鳥居を出て、「はい」を指したのは。ぎょっとして3人とも顔を上げ、白い紙を覗きこみました。溶けた緊張感から再び今度は恐怖感へと変わっていくのがはっきり分かりました。私は今から思うと昔から所謂、見える人だったのですが、そのとき、正面の庭先に、白い着物を着た痩せた女性がこちらをじっと見ていることに気付いたのです。
それからが大変でした。ルール通り帰ってもらうと、私たちは一目散に部屋を出、我先にと外へと転がり出たのでした。それからです。一人の参加した女の子が学校へ来なくなったのは。しばらくしてその家は、お父さんが「何かがいる」と首に数珠を下げるようになったのだそうです。祈祷師がやってきたりするようにもなりました。
私は心配になり、ある日、その子の家へ手紙を持って遊びに行きました。
返事が無いので戸を開けると、上から降りてくる異様な妖気?のようなものに圧倒されて、私は怖くなって少ししか待てず、戸を閉めました。そしてまたしばらく後のこと。
もう一人の子も引っ越しをすることになりました。噂では、コックリさんをした3人のうち、私を除いた二人の子供のお父さんとお母さんが恋仲となり、二人で家を出ることになったのだそうです。話はここまでなのですが、私は大人になってから、なぜコックリさんをした後すぐに、なんの関係も無さそうだった、寄りにもよってコックリさんをした友達二人のご両親がそのようなことになったのか、そしてその家では同時に何者かの存在に怯える騒ぎが起きていたことが不思議だと、思うようになったのです。
コックリさんの硬貨がいきなり動き出した直後に見た、こちらをじっと眺める女性の姿と、動き出した10円玉の迷いの無い勢いの良さは、今でも鮮明に覚えています。きちんとした目的や、意思の強さが無くてはやってはいけないと、今では強く信じています。