私がまだ上京する前、田舎に住んでいた時の話です。
長崎県在住。Tさんの体験談。
当時、日付が変わる前に寝るような生活をしていましたが、次の日が休みなのと、雨の音が心地よく、つい夜更かしをしてしまいました。
時計を見ると、23:59。
そろそろ寝ようと布団をかぶったその時、遠くから「カッカッ」と、ハイヒールで歩いている音が聞こえてきました。
私が住んでいた場所は、公共交通機関の整備が進んでいない車社会であり、住宅から漏れてくる光が街灯の役割をしていたので。
深夜に、ましては雨の中歩いていること自体が珍しいです。
きっと誰かに家の近くまで車で送ってもらって、自宅までのちょっとした距離を歩いているのかなと思いました。
雨の中大変だなぁとは思いましたが、特に気にせず寝ようとしました。
すると、外のハイヒールの音がどんどんこちらに近づいてくるように音が大きくなったのです。
もしかしたら、隣のアパートの人なのかもしれないと思いながら、少しずつ不気味だなと思えてきました。
不気味だと思ったその瞬間、言葉に言い表せないような、恐怖や寒気がするような気持ちの塊が、胸にグサッと突き刺さったような感覚になりました。
その直後に、ハイヒールの音のリズムが速くなりました。その人はきっと走り出したのです。
今までとは違う音で、どんどん私のほうに向かってきます。
走りながらもどんどんスピードが上がり、人間では出せないような速度で走っているような、ありえない音がしました。
当時、2階に住んでいた私は、2階にはどう考えても来れないと思うようにしました。
しかし、ただ漠然と、この音は確実に私のところまで来ると思ったのです。
恐怖で窓の外を見ることもできず、もし窓を見てしまったら、ハイヒールの人と目が合いそうで、目が合ったら殺されると思いました。
ひたすら布団にくるまって、ただ神様助けてくださいと願っていました。
耳をふさいでも、音の大きさが変わることはありません。
何もできないまま、ついにその音は窓の外まで迫ってきて、もう終わりだと思いました。
恐怖で声も出ず、何もできませんでした。
もう死んでしまうと思ったその瞬間、その音はパッと消えました。
そのあとは、何事もなかったかのように、外では雨が降り続けていました。
恐る恐る布団から顔を出し、時計を見ると、ちょうど0:00に変わったところでした。
少し落ち着いてから、隣にあった母の部屋に行き、涙があふれて止まらない状態で、今起きた出来事をすべて話しました。
すると母が「私も聞こえた」というのです。
私の母は、霊感があります。
本当に誰かが歩いていたのか、この世のものではないのか、怖くて母に聞けませんでした。
その日以降、ハイヒールの音を聞くことは二度とありませんでした。
今でも雨が降ると、ふと思い出すことがあります。